ぼくは平成8年7月生まれ。名前は「たいせい」。
それがいつのまにか「たい」と省略され,たいぽん→たいぽんち→ぽんちと変遷した。
そうして「FOOTPRINTS」のぼくのコーナーは「ぽんち日記」と名づけられたのだ。

中学生になった今はもうぽんちと呼ばれることもあまりないけど,
このぽんち日記はまだまだ続くらしい・・。
1997年9月○日 「大失敗」

今日、庭でごみを燃やしていたおとうさんが突然大きな声でどなったんだ。「ぽんちのヤツー!! 」その時ぼくはテラスでごきげんに遊んでいたのだけれど、おとうさんが火の中からつまみ上げた ものを見て「しまったー!」とおどろいた。だってそれはまっくろにコゲたおとうさんのお気に入りのウイスキーグラスだったから。
この前は台所にあった「らー油」のびんをごみ箱にポイして、 上からなべのふたをかぶせて遊んでいるところをおかあさんに見つかったばかりなのに....。「ほんとにもう!目が離せないんだから」とおかあさんはプンプンしていた。今日のことでこれまでの 怪事件はみんなぼくが犯人だったってことがわかっちゃったみたい。
だけどトマトさんの栓抜きは ダンボールの中に入れたら取れなくなっちゃったんだし、ミキサーのスイッチを「ON」にしておいただけであんなふうにスープが飛び出すなんて思ってもみなかったんだもの。悪気はないんだよ、ぼく。ウイスキーグラスだって夜飲んでテー
ブルの上に置きっぱなしにしておく方がいけないんじゃない?だけど今日のおとうさんのショックは相当だったみたい。いやー失敗、失敗。

P.S.来年の2月、ウチに赤ちゃんが来るそうです。来たらずっといるそうです。ぼくはおにいちゃんになるんだって。
1998年3月○日 「大好き

ぼくね、しゅうちゃんのこと大好き。あっ しゅうちゃんって1月の終わりに突然ぼくんちにやってきた赤ちゃんのこと。ほんとは周聖(しゅうせい)って名前なんだよ。なぜだかぼくの名前にちょっと似てる。
しゅうちゃんの手っては小さいんだよ。いつも「ぐー」の形をしてる。この前、開いてみたらバッチイほこりが出てきた。昼間はほとんど寝てるけど時々起きてエンエンするから、そしたら頭をそぉっとなでてあげて、おかあさんに「しゅうちゃん エンエン」って教えてあげるの。それからね、しゅうちゃんのオムツをごみ箱にポイするのもぼくの仕事なんだよ。ちょっと気に入らないのはおかあさんがそれを当然だと思っていること。この前だって2つも渡して「たいせい ポイね」なんて言うから、聞こえないふりをしてやったけどね。
しゅうちゃんが来てから、おとうさんもおかあさんもやたら口うるさい。「ぽんち! しゅうちゃん寝てるからちょっと静かにして。」「しゅうちゃんのミルクに触っちゃダメ!」「あっ しゅうちゃんの上にぶーぶーを落とすなよ。」なんて調子でね。昨日、ぼくは突然変な気持ちになって、しゅうちゃんの顔をペシッってたたいちゃった。次の瞬間おかあさんから怒りの鉄拳が飛んできてぼくは大泣き。その声にびっくりしてしゅうちゃんもわんわん泣き出してもう何がなんだか・・・・。
後でぼくはしゅうちゃんのほっぺにごめんねのチューをしてあげた。早くしゅうちゃんがあんよが出来るといいのにな。そしたらいっぱい遊ぼうね。しゅうちゃん。
1998年10月○日 運動会」

「あー テープがもったいなかったー。」っておかあさんが言うの。「ぽんち ずーっと見てるだけなんだもん。」この前の金曜日はね 保育園の運動会だったんだ。おとうさんとおかあさんは新しいビデオを持ってはりきって見に来てくれたんだけど、帰ってからがっかりしてた。ぼくが「お山の汽車ぽっぽ」っていう踊りをちっとも踊らなかったからだって。だって白いふわふわのポンポンが手ってにくっついちゃってそれがイヤで一生けんめい外そうとしているうちに音楽が終わっちゃったんだもん。
ぼくの保育園は聖ヨハネ保育園っていって、清泉寮のすぐ近くにあるの。お庭が広くて、牛さんがおっぱいいて(注:いっぱい)ぼくはだぁーい好き。ごはんの前のお祈りが長いのが玉にキズだけど...。この間、ぼくは間違えておウチのごはんの時に「天のおとうたま....」ってやっちゃったもんだから、おとうさんはひっくり返りそうになって「おまえのおとうたまはまだ生きてるぞー」だって! 教養がない人はやだね。教養がないっていえばさ、昨日お風呂から上がった後おかあさんがぼくにパジャマを着せながら 「ぽんちー おかあさんにはおちんちんないんだよ。」なんてバカなこと言うんだよ。ぼくは「あるよー。あるでちょ。ねー 見てみて。 ちゃんと。」と反撃した。「おかあさんにはないのだ。」「あるでちょー! ねー そのままでいいの?」「おかあさん 落としちゃった。ぽんち見つけたら拾ってね。」と言うから、見つかったら一緒にお医者さん行こうねと約束した。おかあさんは涙を流しながら、「とーたん ぽんちがね」と向こうに行ってしまった。しゅうちゃんにもあるよねー。ぼく見たもん。あっ しゅうちゃんスリッパなめたらダメー。ぼくのトーマスさわってダメ! もーしゅうちゃんはー。
1999年3月○日 「かるた」

「ボク達のまわりにはいろんな新幹線が走っているけど、キミはいくつ知ってるかなー?」毎日見てたらぼくすっかり覚えちゃった。
この文句で始まる「ひーほーへーマックス(注:E4系Max)」のビデオと出会ってぼくは電車博士への道をまっしぐら。300系、500系のぞみ、こまち、それから理由あって京急。みんな覚えちゃったよ。あのね、こまちの顔はちょっと怒ってるの。あさまと少し似てるけどラインの色が違うんだ。保育園から帰ると毎日「とっきゅうでんしゃ300」の本を見て研究してるんだから。
ぼくがあんまり「これなあに?これは?」って聞くからおかあさんは「ぽんち、字を覚えなさい。みんなここに書いてあるのよ。」と言った。字というものを覚えれば聞かなくてもわかるんだって。そうか、この間ぼくがなめちゃったからしのチューブにもちゃんと「こばやしからい」って書いてあったんだね。おとうさんは早速ぼくに電車かるたを作ってくれて、ひかりの“ひ”、つばさの“つ”、と特訓を始めた。「おい、かーさんや。ぽんちもう覚えたぞ。」とおとうさんが言うと、おかあさんがやってきた。新しい積木を出してきて「じゃあぽんち、いくよ。これはうさぎの“う”。」と言うから、ぼくは積木をひとつ取って「りんごの“う”」と言った。おかあさんは「ほたるの“ほ”」と続ける。ぼくの積木にはパンの絵が書いてあったので、「ほてるのパン」と言ってみた。おかあさんは積木を放り出して、おとうさんをジロッと見てそれから大声で笑った。おかしーな。電車ならわかるのに…。まだまだ特訓は続きそうです。
1999年9月○日 「パンツ」

あのさ、パンツっておしりがスースーするものなんだね。それでもって、パンツをはいてるといつものズボンがちょっと大きくなったかんじ。少し前におとうさんのおともだちの人が、たいせいくんにってパンツをくれたの。青色で、おふねに乗ったミッキーさんがついていて、くるくるっと丸まってとても小さく見えた。「パンツ頂いたけど、ぽんちまだはけないもんねぇ…」とおかあさんはタメ息をついた。「なんでー?ぼくはいてみたい。」と言うと、おかあさんはちょっと考えて「じゃあはいてみる?」と言った。あれれ、おしりのところにテープがついてない。これじゃあどっち向きかわかんないよ。
パンツ一丁であそんでいると、おかあさんが「ほんち おしっこは? したくない?」と何回も何回も聞いてくる。したいのか、したくないのかよくわからないうちにおしりが少し寒くなっておしっこがチロリと出てしまった。おかあさんが飛んで来てじゅうたんをふいている。ぼくはベッドの上にひなんして電車をはしらせていたらまたチロリと出た。おかあさんはこわい顔でぼくのパンツを脱がしてテープのついたオムツをぼくに差し出した。
次の日、ぼくがまたパンツがはきたいと言うと今度はお外に行かされた。お外はとても暑かったのでおしりもスースーしない。おかあさんとおばあちゃんが交代でぼくのパンツを見に来た後で、「ぽんち、そろそろトイレに行こう。」と言った。おしっこなら出ないよ、したくないもんと思ったが無理矢理連れて行かれた。そしていつもの ・・・おなかのコップにだんだんお水がたまってきましたよ・・・のお話を聞いているときに突然下の方でチロチロと音がした。おかあさんはぼくをどかしてのぞきこみ、においまでかいでいる。「やめろよー カアチャン。」 お父さんも飛んで来て、ぼくを抱き上げ「約束のみどりのぶどうをいっぱい買ってやるからな。」と言った。やった! トイレでおしっこをすると、これから毎日ぶどうが食べられるんだ。だいじょうぶ。ぼくできるもんね。もうわかっちゃった。それからしばらくして保育園の先生が「オムツをみんなしゅうちゃんにあげようね。よかったね、たいちゃん。」と言ってくれた。今では毎朝パンツを選ぶのがぼくの楽しみ。今日はエービーシーデーのパンツなんだよ。見るー?
2000年3月○日「やだやだ病のしゅうちゃん」

しゅうちゃんっていうのはずっと前の大雪の日、突然ボクの家にやってきたボクの弟のこと。2才になったばかりなんだ。この前、保育園で1月生まれのお誕生日会があった。1人ずつ前に出てプレゼントをもらうんだけど、自分の好きな子から手渡してもらえるんだよ。しゅうちゃんは家で 「ちゅー ももちゃん ちゅきー」といつも言っているくせに、赤い顔して黙っているから結局ボクが先生に呼ばれちゃった。でも、しゅうちゃんもかわいいとこあるなーとボクは思った。だって最近のしゅうちゃんってスゴイんだから・・・。
おかあさんが「お風呂入ろ」と言うと 「あだ!」「ねんねしよ」「ねんね ない!」いつもこんな調子。(でも 「ご飯食べよ」の時だけは 「ちゅー ごあん ばべるー」なんだけどね。)今日はどうしてもパジャマを着るのが 「あだ!」と言っている。「しゅうは、はだかんぼで寝るの?」「ちょーよ」「それならお外のラルフのところに行く?」「うん いいよ」 あーっ しゅうちゃん、それ以上言ったらおかあさん爆発だぞっ とボクが思ったそのとき、おかあさんがすくっと立ち上がってしゅうちゃんをお部屋の外に出しちゃった。 しゅうちゃんが泣きながらドアをたたいている。おかあさん、そろそろ許してあげてよ・・・ 
しばらくしておかあさんはフーとタメイキをついてドアを開けてあげた。そしたら真っ赤に怒ったしゅうちゃんがつかつかと入ってきて、「かっかのバカチーン!」といきなりおかあさんの頭をゲンコツで殴ったんだ。これにはボクもびっくり。おかあさんはボーゼンとしてボクを振り返って、「ぽんちー!」と泣きついてきた。もー しゅうちゃんは!! やだやだ園に連れて行かれても知らないよー。
2000年9月○日 「情けないぼく」

またおとうさんにやられちゃった。わかってるけど恐いんだよね。ぼくが二階から一人で降りてくるとぜったい階段の下にかくれてて「がおーっ」て飛び出してくる。そこにいないときはカウンターの後ろから。お部屋で遊んでいても電気がスーッと暗くなって恐い音楽がかかったり、トイレのドアが突然ドンドンドンって鳴ったり・・・。いじわるなおとうさん。ぼくがこんなに恐がりになっちゃったのはぜったいおとうさんのせいなんだから。
ぼくはトーマスのビデオがとっても苦手。パーシーのブレーキが壊れて「たったっ たすけてくれー!」ってなるとお尻が浮いてきちゃってもうダメ。絵本を読んでもらっても「その時 森の奥で何かがキラリと光りました」って低い声で言われるだけでなんだか落ち着かなくなって訳もなく立ち上がったりして。しゅうちゃんは全然平気そうなんだけど。
それからさ、トトロのねこバスもいやなんだ。あの ニヤッと笑う顔がなんとも・・。ベッドに入ってちっとも寝ないとねこバスが迎えに来てトトロの森へ連れて行っちゃうんだって。ほんとかなぁ。来たらどうしよう。ぼくはぎゅっと目をつぶって「もう寝るところです。よそへ行って下さい。」とお願いするんだ。この前おばあちゃんと一緒に寝たときにさ、おばあちゃんが言うんだよ。「たいせい、いいかげんに寝ないとハトバスが迎えに来るよ。」って。おばあちゃん、ハトバスっていうのもいるの? なんだか恐そうだねぇ。
2001年4月○日 「男の子、女の子」

「ほらほら,たいせい。また目がカバンの方を見てるぞ。お帰りなさいはどうした?」あー、やっぱり言われちゃった。おとうさんが帰ってきたのはうれしいけどさ。それよりおみやげが気になる正直なぼく。今日は何だろう?電車かな、車かなぁ。約束していたオスオス・メスメスの線路かも・・。
プラレールのコースを作るのってむずかしいんだよー。お客さんが帰った後はテーブルを動かして,おとうさんと一緒にすごーく大きなコースを作って700系や成田エクスプレスを走らせるんだ。踏切を作ったり,ポイントの切替を自動にしたりしてね。おとうさんが考えているときにぼくが勝手にまっすぐなのをつないじゃったりすると大変。「こら,たいせい,どけ。おとうさんにまかせろ!」なんてしかられちゃう。ときどき,おかあさんが見に来るけど,はっきり言ってじゃまなんだよね。 「あらー,ぽんち,これつながらないわ。どうしよう。」 そういうときのためにオスオス・メスメスの線路があるんじゃんか。男の子どうしじゃつながらないんだよ。そんなこともわかんないの? 「あのねえ,ぽんち。その男の子どうしっていうの,おねがいだから止めてくれない。」 なんでだよ,おかあさんこそあっち行ってよ。ねえねえ、おとうさん,ここに駅を作ろうよ。ここから上に登らせて,ここで別れるのはどうかなぁ。あー、やっぱりダメだ。今度は女の子どうしになっちゃった!
2001年10月○日 「はじめてのおつかい」

「おとうふっていろいろあるんだねぇ しゅうちゃん。」 大きいのや小さいの,白いのや茶色のまであってどれがいいのかよくわからない。ぼくは大きな声でお店の人にきいてみた。「あのー,ふつうのおとうふってどれですか?」 そしたらお兄さんが「これでいいかな」と言って1つ取ってくれた。
ぼくはおとうさんにたのまれて,しゅうちゃんと2人だけでトミーズにおかいものにきたんだよ。出かける前になんだか泣きそうな顔をしたおかあさんとやくそくをした。車に気をつけることと,お金をおとさないこと。かってくるものはおとうふ1つとにんじん1つ。ビニールぶくろに紙のお金を1枚入れてもらってぼくたちは家を出てきたんだ。いつもはすぐ着いちゃうお店なのに今日はなんだか少し遠かった。
お店に入るとにんじんはすぐにあった。たなからとってしゅうちゃんに持たせた。つぎはおとうふ。ちょっとこまったけど,やっとふつうのおとうふが見つかった。お金を払うところにならんでいたら,うしろのおばちゃんが「ぼくたちどこから来たの? えらいわねぇ」と話しかけてきた。しゅうちゃんはぼくにぴたっとくっついている。ぼくが「上の方の青いペンションから来たの」と言うと,おばちゃんはまた「えらいわねぇ」と言った。
あれ? 駐車場にとまっているのはお父さんのくるまかな? お父さんとよく似たぼうしかぶってる人がいる。 そんなことより早く帰らなくちゃ。ぼくがにんじんとおとうふのふくろを持って,お金はこんどはしゅうちゃんが持った。前の方から白い車がすごいスピードで走ってきたので,ぼくたちはびっくりして,2人で手をつないでお店のへいにくっついて,車が通りすぎるのを待った。
家に帰ってドアを開けるとおかあさんが玄関にペタンと座っていて,気持悪いくらいやさしい声で「おかえり」と言った。ぼくは「ただいま」と言い,しゅうちゃんはいつものように「おかえり」と言った。「おかえりなさい」とおかあさんはもう一度言い,僕たちをぎゅっと抱きしめた。おかあさん,首からかけてる黒いのなに? 双眼鏡? そんなにぎゅっとしたらおとうふがつぶれちゃうよ。しゅうちゃんはコーフンしておかあさんになにか言っている。「ちゅーね,たいと約束したの。毒グモがいるから,草の中に入らないこと。お店に一人で行かないこと。それからお店で走らないこと,転んだら頭からオオミソが出ちゃうからね。ちゅー,約束ちゃんとまもったよ。ね,たーい。」 うん,ぼくたち
ちゃんと2人でおかいものできたよね。
2002年3月○日 「迷子のしゅうちゃん」

「しゅうちゃん,おかあさんがよんでるよ」「しゅうちゃんじゃないの」「よんでるよ,しゅうちゃん!」「しゅうちゃんじゃなくて,しゅうせいくん。ちゃんは女なの。男はくん! だからしゅうせいくんでしょ!!!」
あーうるさいな,またはじまった。このごろぼくがしゅうちゃんってよぶとすぐおこるんだから,もう!「わかりましたよ,しゅうせいくん」
しゅうちゃんはぼくの弟でいま4さい。ほいくえんのめぐみぐみ。時々ふたごにまちがえられるけど,しゅうちゃんの頭はぼくの鼻までしかないし,顔だってぜんぜんちがう。ぼくがおやつはおだんごがいいって言うと,しゅうちゃんはケーキがいいって言う。ぼくが牛乳のみたいって言うとミルクティーがいいなんて言う。ほんとにぜんぜんちがうんだから。
ぼくが一度もなったことがないのに,しゅうちゃんはよく迷子にもなる。この前も甲府のトイザらスすでぼくとおとうさんがおもちゃをえらんでいる間にしゅうちゃんがどっか行っちゃった。「お金払ってないおもちゃ持ってるから,お店の外には行けないさ。」とおとうさんはのんびり。しゅうちゃん,おっきいラジコンカーの箱かかえてどこウロウロしてんだろう・・」 他で買物をすませたおかあさんがやってきて,ぼくたちは本気でしゅうちゃんをさがしはじめた。すると,「ピンポンパーン」とお店のなかに大きな音がひびいた。おかあさんはハッと上を見上げている。「ただいま,しゅうせいくんとおっしゃる4才の男の子をお預りしています。」だってー!「わあ,しゅうせい,ちゃんと名前と年が言えたんだ。エライ エライ」とおかあさんはにやにや。おかあさん,笑ってないで早く迎えに行かなくちゃ。
行ってみると大きな箱をかかえたままものすごい顔で泣いているしゅうちゃんがいた。ぼくたちの顔をみるともっと大きな声で泣きながら走ってきた。おかあさんはしゅうちゃんをだっこして,むぎゅーをしてから聞いた。「ねえ,お名前ちゃんと言えたんだね。」「うん」「どこからきたの?は聞かれなかった?」「聞かれたよ」「何て言ったの?」「ごしょいもさんのとなりですっていったの」おかあさんはしゅうちゃんを落っことしそうになってめちゃめちゃ笑っている。「ごしょいもさんって言ったってわかるもんか。トミーズのちかくっていえばよかったのに。バカだなぁ,しゅうちゃんは。」
2002年9月○日 「小林シャチ?」

これがミンククジラでしょ。これはネコザメ。こっちはハンマーヘッドシャーク。今ボクとしゅうちゃんのお気に入りはこうやってシートの上に海の動物たちを並べて遊ぶこと。しゅうちゃんのと合わせて黄色いバッグいっぱいに入っているけど,まだオキゴンドウもないし,スジイルカもないんだもん。こんど大阪の海遊館に行ったらまた買ってもらわなくちゃ。
この前のお休み,ずっと約束していた鴨川シーワールドに連れて行ってもらったんだ。バスと,ビューのつかないわかしおに乗って海の見える大きなお風呂のあるところで1つお泊りしたの。
シャチのショーがもうサイコーにかっこよかった。大きなからだをぐるっとくねらせてジャンプしたり,おねえさんを鼻先に乗っけて回したりさ。シャチって頭がいいんだね。それに海のしょくもつれんさのちょうてんでしょう。しょくもつれんさのちょうてんっていうのは1番強いってことなんだよ。知ってる?フランクトン(注:プランクトン)をオキアミが食べて,オキアミを小さい魚が食べて,小さい魚を中くらいのさかなが食べて,中くらいの魚を大きいさかなが食べるの。それで大きいさかなをサメやクジラが食べるでしょう。あっ,ヒゲクジラの仲間はフランクトンやオキアミを食べるんだけどね。シャチは自分より大きなクジラも襲うことがあるんだよ。でも人間は襲わないの。食べたことないからどんな味かわかんないでしょ,だから。ぼくはねえ,ぼくのお嫁さんが赤ちゃんを産んだらシャチっていう名前をつけるよ。「小林シャチ」いい名前でしょう。しゅうちゃんのあかちゃんは小林イッカクだよね。赤ちゃんには好きな名前つけていいっておかあさんが言ってたもの。

2003年3月○日 「人生って・・・」

「ぼくたちってずっとほいくえんに行くわけじゃないんだなぁ」 
3がつのはじめごろからおかあさんが「たいせい 保育園もあと1ヶ月ねぇ」「あと2週間ねぇ」「あと3日ねぇ」と毎日のようにくりかえすんだ。「もう保育園でしゅうちゃんと遊べないよ。さびしくなーい?」 あのさー しゅうちゃんは弟なんだから・・いっしょに住んでるんだからさびしくないでしょうが! もう! おかあさん,ほいくえんのつぎは小学校で,小学校の次はなに? 「中学よ」 その次は?「うーん,中学でおしまいの人もいるし,高校へ行く人もいるよ。」 その次は?「大学ってとこもあるけど,べつに行かなくてもいいんだよ。お金いっぱいかかるし。」 ふーん,なんで行かなくてもいいの? 「大学に行ってお勉強する人もいるし,行かなくてお仕事する人もいるよ」 
ふーん,そういうことか。 この前やった人生ゲームにも ビジネスコースとかせんもんかコースとかあったもんね。けんちく家になってけっこんしたら子供が6人も生れちゃって車にのせられなくなって困ったけど,みんなから500円ずつお祝いをもらったからぼくお金もちになっちゃった。せいめいほけんっていうのがあったからスキーでケガしたときもお金がもらえたし。でもピカソってゆう絵をかったらお金がなくなっちゃったよ。ピカソってどんな絵なの?。ところでさ,ぼくたちダイコンを一度も使わなかったね。ダイコンいりますかって言われてもだれも買わなかったね。 「ダ・イ・コ・ン・? ・・・・・?」 いきなりおかあさんが床にころがって笑い出した。 なんだよー 何がおかしいんだよー。しゅうちゃんがまじめなかおで言った。
「たい,カブ!ダイコンじゃなくて カブだよ。」 あーそうか,カブだった。どっちも白いからいっしょじゃん。ダイコンだってカブだって人生には両方とも大事なんだよ。わかる? しゅうちゃん。
2003年10月○日 「宿題」

それにしてもしゅうちゃんはいいなー。毎日たのしそうで。「えっ 今日は田んぼに行く日?」ぼくもいっしょに行きたいな。学校なんてぜんぜん遊ぶ時間ないんだよ。勉強と勉強の間に3回ぐらいしか外には出られないし・・・ 「へー たい、いっぱいあそぶじゃん。しゅうはね、2回しかあそばないよ。朝行ってからお昼ごはんの前までと、食べてから帰るまでの時間。」 それってずっと遊んでるってことでしょうが。
ぼくも保育園にまた行きたい。学校って、先生こわいし、宿題もあるし、あんまり楽しくないよ。 ぼく、国語の宿題って苦手。おんなじ字を何回も書いたり、文を作ったり。 今日は「は・へ・を」 を使って文を作りましょうって書いてあるから、『ぼくは、こうえんへバッタをつかまえました。』って書いた。 おかあさんが、「何か変じゃない? 『ぼくは、こうえんへバッタをつかまえにいきました。』 ならいいんじゃないの。」 と言う。だってぼく、こうえんへ行くまではバッタがいるかどうかわからなかったんだもん。たまたまバッタがいたからつかまえたんだもん。 だから 『つかまえにいきました』 じゃおかしいよ。「うーん、そりゃそうだ。ぽんちは日本語よくわかってるねぇ。まあ、細かいことは気にしないで、宿題にはそう書いときなさい。」 そんなんでいいの? おかあさん。
あーっ まだ音読の宿題もあるんだった。読むのってむつかしいな。読んでると前に書いてあったことどんどん忘れちゃうんだもん。 でも練習したら少し読めるようになってきたよ。 すごくゆっくりしか読めないけど。
この前近くの温泉に行ったときさ、お風呂を出てかがみのあるところに四角いはこがあった。中に髪の毛のブラシが入ってて青い光がすごく光ってたの。そこに紙がはってあったからぼく顔をくっつけていっしょうけんめい読んだんだ。 「め・っき・ん・・ラ・ンプ・・です。め・・に・・・よく・・ありま・・せん・・・の・で、み・・・な・い・・・ように・・・し・・て・くだ・・さ・・・・・??  わぁーーーー ぼく ずっと 見ちゃったよーーーー!!!どうしよう! おかーさーん!」

2004年5月○日 「おこづかい」

「ちょっと,しゅうちゃん!なに持ってるの」。しゅうせいはいつもこれだからな。もう財布の中にはお金がないのにポケモン・マスカット(注:マスコット)人形を2個も持って。
ぼくたちは,4月からおこづかいがもらえるようになったんだ。ぼくは2年生だから400円,しゅうせいは1年生だから300円。ちゃんとおこづかい帳をつけるのが約束なんだけど。
この前ぼくたちはもらったばかりのおこづかいを持って,おとうさんにコンビニに連れてってもらった。ポケモン・カードが300円でマスカット人形が100円で…。あれ,これだけ買っただけでもうないじゃん!しょうがないからぼくはマスカット人形を2個だけ選んで,200円残したんだ。全部使っちゃたらもう買えないもんね。あれ,しゅうちゃん3個買うの?。おこづかいなくなっちゃうよ!「だって,ほしいんだもん。いいじゃん。」 帰ってきて二人でおこづかい帳をつけた。ぼくは400円―200円で,残りは200円。しゅうちゃんは計算かんたんだね。300円―300円で0円。もう何にも買えないよ。
なのに今日しゅうちゃんはマスカット人形を2個も持ってまたレジに並んでる。どうやって買うの,しゅうちゃん!「いいじゃん,おとうさんに貸してもらうんだもん。」「えーそんなのずるいよ!!」「しゅうせい,今度のおこづかいは100円になっちゃうけどいいの?」とおとうさんが聞いても「いいよ,だってほしいんだもん。」だって。本当に分かってるのかな?ぼくは今日は1個にして100円残そう。でもお金って使うと減るばっかしで,増える方法はないのかな?そうだ!庭で四葉のクローバー探してお客さんに10円で売ろう。そうすればお客さんも喜ぶし,おこづかいも増えるし! おとうさん,そうしてもいい? お客さん,買ってください。お願いです。

2004年10月○日 「かん字」

でんこうせっかの「でん」ってでんきの「でん」と同じなんだねー、おかあさん! 「そうよ、意味が同じだからね」 へー、知らなかった。でも、どろんこは「土ろんこ」じゃないでしょう? 一年のとき、たいこを「田いこ」って書いたらすごく笑われたしなー。かん字ってほんとむつかしいねぇ。
「たい、たい! しぜんの「ぜん」って書ける?ぼく、書けるよ」 あっ、またトイレの中で覚えてきたんだな、しゅうせい。 ぼくんちのトイレにはむつかしいかん字の書いてあるカレンダーがあって、一枚めくるとちがう字が出てくるんだ。去年のだから曜日がずれてるんだけど、しゅうせいが気に入っててちゃんと毎日めくってる。そして覚えたかん字をノートに書いているへんなヤツ。「犬、泰、周、台、然、林・・・」 へー、こんなに覚えたの、しゅうせい えらいじゃん。「すごいでしょ。 ・・あのさ、ところで「ま」ってどういう字だっけ?」 「ま」って、ひらがなの「ま」? あのねー、それわかんないのやばいよ。かん字より先にひらがな、カンペキにしなよ。2年になるとね、国語すごくむつかしくなるんだよ。教科書のお話読んでかんそう文を書いたりさ。かんそう文って、はじめて知ったこととか、思ったこととかを書くんだって。だけど、この「海の生きもの」って話、ぼくの知っていることばかりなんだもん。はじめてわかったことなんかないんだもん。この宿題どうしたらいいの?おかあさん。 「たいせい、がんばってよ。夏休みの宿題の感想文コンクールで賞状もらった腕前でしょう?ふっふっふ・・」 なんだよ、ふっふっふって。あれ変だったよねー。先生に清書してきなさいって渡されたヤツ、ぼくが書いたのよりずっと長かったし、ぼくが書いた覚えのないことまでいっぱい書いてあって写すの大変だったもんね。なんか変なんだよなー。もう賞状もらっちゃったから返さないけどねー。
2005年4月○日 「歯医者さん」

急に押えつけられちゃってぼく本当にびっくりしたなぁ。昨日の夜から歯が痛くて痛くて、今朝は学校に行く前に歯医者さんでみてもらうことになったんだ。この間、保育園のころからずっと歯にはさまっていたゴマが取れて、あーすっきりしたと思ってたら、痛くなったのはそれからなんだよね。   
名前が呼ばれるのを待っている間も痛くて痛くて涙が自然に出てきちゃうほど・・。「いい、たいせい。こんなに痛いんだから今日はがんばって先生にちゃんと診てもらおうね。」「うん、わかってる。ぼくもう保育園じゃないんだから大丈夫だよ。」
ところが診察室に入って先生が近づいてきたとたん、保育園のころのいやーな気持を思い出して、急にこわくなってしまった。あれっ、なんだか歯の方もそんなに痛くなくなったみたい。ぼくは慌てて両手で口を押えていすからすべり降りた。「あー、たいせい! 約束したでしょ。」「たいせい君、もう3年生だろ。がんばろう。」お母さんに何と言われようが、先生に何と言われようとこわいものはこわい。いやだ、いやだ。絶対にいやだぁ。「診てもらわなきゃ、ずっと痛いままなんだよ。ご飯も食べられないよ。」分ってる。それは分ってるんだけど・・今日はこのまま帰りたい。ぼくは口を押えたまま床に座って首を振りつづけた。
しばらくすると看護婦さんが3人、ぼくをちらちら見ながら何かひそひそ相談してる、と思った瞬間3人がぼくをいすに引きずり上げ、一番体の大きな人がぼくに乗っかってぼくの体を押えつけた。「わぁーっ! 何すんだよぉー!止めてぇ!」と叫ぶぼくの口を無理やり開けて先生がチクリと麻酔の注射を打った。あれ、思ったほど痛くないじゃん。ぼくはもう体中の力が抜けてだらーんとしてしまった。「たいせい君、これから歯をけずるよ。もう、しっかりできるね。それとも、もう一度押えつけられたいかい?」んー、どうしよう、でも念のため「もう一度押えつけてください」とぼくが答えるとお母さんが後でずっこけた。だってまた痛いかもしれないじゃん。そしたら先生もお母さんも前より怖い顔でにらんでる。ぼくはかんねんして口を開けた。先生はうなづいて、歯をガリガリけずり始めた。あれ、なんだ。全然痛くない。麻酔ってスゴイ。あっという間に終っちゃったよ。こんなことならもっと早くやってもらえばよかった。
 帰りの車の中でお母さんはブリブリ怒っている。「まったくあんたって子は。やって痛かったら泣け。やる前から泣くなーっ もう!」ごめんごめん、お母さん。
 家に帰ったらお父さんが 「おう、今日はどうだった?」と聞いてきた。「平気、へーき。全然痛くなかったよ。お父さんも今度歯医者行ったら、最初に麻酔打ってくださいって頼めばいいからね」。

2005年9月○日 「お調子者」

それにしても弟はいいよなぁ。だってぼくのやることみんな見てて、それマネしちゃえばいいんだもんな。しゅうせいは今2年生。毎日得意になってかけ算の練習をしている。ぼくは去年毎日お風呂で泣きながら覚えたっていうのにさ・・。それ、ずっと聞いてたんだから、そりゃぁ自分が覚えるのだって早いよなぁ。でもさ、学校で「ぼく知ってる、ぼく6の段ももう知ってるよ」とか言うのはやめた方がいいと思うな。おかあさん、授業参観の時、恥かしかったって言ってたよ。ちょっと得意なことあると、すぐ調子に乗るんだから・・・。
それとさ、ぼくの宿題に首つっこむのも止めてよね。ぼくが「緑」って字間違えたとたんに 「たいせい、昨日もそれ間違ってたよ。たいせいがあんまり何回も練習してるからぼくの方が覚えちゃったよ」だって! しゅうせいってほんとにウザイ!! ねえ、ごんべんにしゅうせいの周って書いてなんて読むか知ってる? お調子者の「調」って字だよ。「お調子もんの周聖が何か言っている」って覚えると忘れないから。
ところでこのおやつのカステラ半分っこしなさいだって。「ぼく切ったけどどっちがいい? しゅうせい?」「こっちの大きい方、もーらった」「あのさ、少しは遠慮するってこと 覚えた方がいいと思うな。」「えんりょってどういうイミ?」「あのね、好きなものでも、いいですと言ってもらわなかったりすること」「ふうん・・わかったわかった。じゃあこんなのどう? アイスいりますかって言われたら、『ア、いいっす』 なんちゃってー、なんちゃってー」「もぉっ お前はホントにお調子もんだ! このヤロー」
2006年4月○日 「大事件」

それは本当に大事件といってもいいような出来事だった。ある日のこと、ぼくと周聖とおとうさんが買い物から帰ると見たことのない犬が二匹ぼくんちの庭をウロウロしていた。ラルフよりも背が高くて足がすらっとした黒と茶色の犬だ。首のところにラジコンカーのアンテナみたいなものが付いていた。「どこの犬だろう?」ラルフがものすごいいきおいでほえている。二匹の犬は草を食べていたテッドの方へ近づいて行った。はじめはテッドのおしりのにおいをかいだりしていて、テッドも別にこわがっていないようだった。けど、いきなり黒い方がテッドのしっぽにかみついたんだ。
テッドは「めぇーーーっ」って大きな声で鳴いて必死で逃げようとした。おとうさんが走ってきてかみついている犬を足で思い切りけとばした。犬はしっぽを一瞬放したけど今度は後ろ足にかみついて、テッドは地面に引き倒されそうになった。周聖は立ちすくんでギャーギャー泣いているばかり。おとうさんが石をつかんで犬めがけて投げつけると犬はようやくテッドを放して逃げようとした。「よくもやったな!」頭に来たぼくは追いかけていって必死で犬をけとばした。おかあさんが「泰聖、あぶないから止めなさい!」と叫んでるけど、ぼくは容赦しないぞ。一発、二発、夢中でけとばしてやった。二匹の犬はやっと遠くへ逃げて行った。
周聖がテッドに声をかけて小屋の方へと引っ張っていった。こっちならラルフがいるから大丈夫。ラルフはテッドが近づいて角で突っついても全然怒ったりしないけど、怖い犬だっているんだぞ。ラルフがどんなにやさしいヤツかってことが分かっただろ。
家に入るとおかあさんが泣きそうな顔で立っていた。「泰聖までかまれるんじゃないかと思って怖かったよ」「大丈夫だってば、おかあさん」おかあさんはぼくをギュッとして「泰はやさしくて強い子だね」と言ってくれた。あとで聞いたら、あの犬は猟犬で、獲物をしとめる訓練を受けてるどう猛なやつらだったらしい。周聖はそれからしばらく、やたら「おにいちゃん、おにいちゃん」とぼくの後をくっついて来る。もう気持ち悪いからやめてよ。いつもは「おい、泰聖!」って呼び捨てにしているくせに。
2006年9月○日 「てるてる坊主」

周聖の夢はケーキ屋さんになることなんだって。今日は急にケーキを作りたいと言い出した。おかあさんが「忙しいから手伝えないよ」って言っているのに・・。結局手伝わされるのはぼくなんだよね。小麦粉を計ったり、卵を割ったり。卵ってこのまま暖めてやればひよこになるのかしらん? ボウルの中の卵が仲良くぷっくり並んでいる。4人家族だ。割られちゃって、なんだかかわいそう。「おーーい!ぴよちゃーん。ぴよちゃーん!」 すかさず周聖の声が飛んできた。「たいせい!いちいち卵に話しかけんなーーーー!」 最近周聖によくツッコミ入れられような気がするなぁ。
このあいだの運動会のときの話。運動会の前の日、天気予報が「明日は雨です。」って言うと、周聖ったら「よし、てるてる坊主つくろっと。」ティッシュをまた一枚、また一枚またまた一枚。おいおいどれだけ作るんだよ!もったいないじゃないか!「じゃあ、たいせい、明日雨でもいいわけ!?」それはこまるけど・・・、と言ってる間に10個ぐらい作って窓のところにはりつけた。でも、そのかいなくやっぱり雨で、運動会は次の日になっちゃったけど・・・。
それからしばらく経ったある日、あれ、大量のてるてる坊主が全部ゴミ箱に捨ててある。ゴミ箱から顔をのぞかせて、たくさんのてるてる坊主が笑いながらぼくの方を見てる。かわいそうじゃん!周聖!それに捨てられてるのに笑ってるなんて!でも周聖はすずしい顔で「てるてる坊主って終わったらすててもいいんだよ。」周聖ひどいなぁ・・。ぼくはゴミ箱のてるてる坊主一つ一つにマジックで涙を描いてあげた。今度は泣き顔のてるてる坊主でゴミ箱が一杯になってしまった。周聖が一言。「よけいにかわいそうだろうがーーー!!」ほんと、そういえばそうかな・・・。

2007年6月○日 「大事なこと?」

「しっかり話し合いはできましたか。これで第一回児童総会を終わります。」朝ごはんを食べなが ら何度も声に出して言ってみる。「たいせい、それ、もういいかげん聞き飽きたよ。」と、しゅう せい。他人のことだと思って、今日が本番なの!、それに終わりの言葉って重要なんだから。
あーあ、こんなことならぼく児童会の役員なんかにならなきゃよかったなー。いろいろ仕事があっ て昼休みはつぶれるし、今日みたいに全校のみんなの前でしゃべんなきゃいけないし。
4年生の終わりに児童会の役員選挙があって、新しい5年生からも立候補者を立てることになり、 ぼくを入れて6人が立候補した。ぼくは人前でしゃべるのが大の苦手だから、絶対に選ばれるとは 思ってなかったのに、なぜか、ぼくともう一人の女の子が選ばれた。「あいさつビンゴ」としゅうせいが考えたぼくの「こうやく」というやつ。それがみんなに受けたみたい。お父さんもお母さん も、ぼくが当選したって聞いて、どひゃーって感じで驚いていた。もっとじっくり考えてから手を 挙げればよかったな・・・。やっぱ、ぼくってちょっとぬけてるかなぁ。それに頭わるいかも。
お母さんにも「あのねー、そんなことはおいといて。大事なことをよく考えて。」とよく言われる 。算数の問題で、「まさおくんは、月におこづかいを600円もらい、その3分の1を貯金箱に入れます。そして今日からは毎日10円ずつ、貯金を始めることにしました。・・・・」とか出てくるでしょ。
ぼくは考える。その10円はいったいどこから来るのか。おこづかいの中から出すのか 、それともお手伝いをしてごほうびをもらうのか。なんなら最初に3分の1じゃなく、半分くらい貯金箱に入れたらいいんじゃないか。ねえ、お母さん、そう思わない? するとお母さんは、ふー っとため息をついて、「あのねー!」と来るわけ。だって気になるじゃん、そういうこと。それとさ、お母さんが最近買ってきた英語のCDも変だよ。初めに「わたし、お魚きらーい」っていうと「 ママもきらい」って言うんだよ。だめじゃん、このママ。それに魚の料理、自分で作ったんじゃな いのかなぁ、って考えてるうちに「abcdjiks・・・・」って英語のところは終わっちゃってる。
「あのねー!たいせい。そんなことはどうでもいいの。それより「ママもきらい」って英語でどう言うの か、それをちゃんと聞いてなさい!まったく!」。おかあさん、そりゃ無理だよ、だってぼくは男 だから、ママにはなることは一生ないんだから。「ママも」って英語で覚えたって意味ないじゃん か。ほんと、ぼくって頭わるいのかな~、勉強って、なんでこんな変なことばかり問題にするんだろう?

2007年10月○日 「ジュゴンがじゅもん?」

最近ボクは夜なかなか眠れない。今日もバスケの練習があったし、マラソン大会の練習も毎日あって、けっこう疲れているはずなのになあ。おや、今日はめずらしくしゅうせいもとなりでまだごそ ごそしている。
「しゅうせい、眠れないの?」「うん、ボク、すごく疲れているときに限って眠れないことがあるんだよね。」「ふうん、ボクは眠い時に限ってよく眠れるし、眠くない時に限って ちっとも眠れないんだよね」「・・・たいせい、それってすごくあたりまえかも・・」「あっ、そう?」 
眠れない夜は下へ降りて行って、好きな音楽でも聴きたいなあ。ボクが少し前からハマっ ているのが、スキマスイッチとか平原綾香とか、あと、ポルノグラフティもいいよね。お父さんに 頼んでCDを借りてもらったり、ゆうせんでリクエストしたりして、「たいとしゅうのお気に入り CD」というのを作ってもらったんだ。
このあいだポルノグラフティの「アゲハチョウ」という曲 を大声で歌っていたら、おかあさんが「ぷっ」とふきだして、「ねえ、今のところなんて言ったの ?」と聞いてきた。「・・・世の果てでは空飛ぶひじゃまじる・・・」「ひじゃまじるって何?」 わからないけど、確かにこう聞こえるんだよ。おかあさんはどう思う?「・・・空飛ぶ火花ちる・ ・じゃない?」うーん、なんか変だな。おかあさんもいいかげんだね。おとうさん、助けてよ。「 世の果てでは空と海が混じる、じゃないか。」「さすが!おとうさん!たくさんCD買ってるだけ あるね。」と言ったら、おかあさんがすかさず「ホント、ホント」といじわるそうに言ったので、 おとうさんはさっさとあっちへ行ってしまった。
次の日、お風呂の中でまた、今度はおとうさんに大爆笑されちゃった。しゅうせいと一緒にスキマスイッチのボクノートを熱唱してたときのこと、「おいおい、これってジュゴンの歌なのか?」知らないけど、・・ジュゴンのようにつぶやいてた・・・って聴こえるんだもん。お風呂からあがっ ておとうさんと一緒に聴いてみた。「・・しかたないさと呪文のようにつぶやいてた・・・だろう 。ジュゴンじゃなくて、呪文。」そうか!「じゅもん」か!ねえねえ、そういえば、今度の大音楽集会の5年生の出し物、決まったよ。えーとね、なんとかの いぶき。「えっ、たいせい、誰のいびき? わかった、おやじのいびき?」 もうっー! しゅうせい!お前の耳はどんな耳してんだよー! ぼくも人のこと言えないけど。
2008年3月○日 「アメリカ人ってホントはやさしいんだ」

「・・・当機はまもなくロサンゼルス国際空港に着陸いたします。・・・」もうじきアメリカだ、ふ~、緊張してきた・・・。「たいもしゅうも、どうしたの?もうすぐアメリカに着くよ。楽しみでしょう?」おかあさん、ぼくらはそれどころじゃないんだよ。だって、アメリカに入れてもらえるかどうかま だわからないもん。
アメリカ旅行に行くぞ!っておとうさんが言い出した3年前から、ぼくらはこ の瞬間が一番不安だったんだ。「アメリカに入る時にはな、必ず入国審査っていうのがあって、歳はいくつ?とか、何しに来た?とか英語で聞かれるからな。それも必ず一人ずつ呼ばれるから、お とうさんもおかあさんも助けてあげられないからな」 で、もしも答えられなかったらどうなるの ・・?「それは当然日本へ返されちゃうさ」 げ~!もしも、ぼくだけダメだったらどうしよう・ ・・? 
飛行機を降りて長い廊下を歩く間も、ぼくとしゅうせいは「サイトシーイング、サイトシ ーイング・・」と何度も練習しながら歩いた。自分のパスポートを持って線に沿って4人で並び、 まずおとうさん一人がカウンターへ。笑いながら何か話してる。そしてぼくたちが呼ばれた。あれ ?一人ずつじゃなくていいの?すると、怖そうな顔をしたおじさんが突然ニコッとして、「コンニ チハ!カンコウデスカ?」って聞いてきた。え~!!、日本語じゃ~ん!!  ・・・ ぼうぜんとし ているぼくにおじさんは、「たのしんでね、バイバイ!」って言ってくれた。アメリカ人って日本語しゃべるの? それにすごくやさしい。ホッとしたけど、ぼくらの3年間の心配はどうなるワケ ・・・おとうさん!?アメリカは黒人や白人やいろんな人がいるけど、みんなぼくらの顔を見ながらニコッとしてくれたり、ドアを開けてくれたり、言葉はわかんないけどとても親切だった。おとうさんの友達のトムも ぼくらにやさしくビリヤードを教えてくれた。
でもぼくがびっくりしたのは、アメリカ人が一日中 、靴をはいたままだってこと。ぼくはそれが一番たえられなかった。シャワー浴びるときと、ベッ ドに上がるとき以外はず~っと靴をはいてるなんて・・・ありえない!ぼくは日本に生まれてよか ったな~。

2008年11月○日 「弟ってやつは」

 メジャーリーグのワールドシリーズ、1アウト、ランナー1、3塁のピンチ。「打ったー!しか しこれはショート正面へ。しのぎました。ここは注文どおりのダブルプレー!」テレビのアナウンサーが叫んでいる。おれの横で見ていた周聖が一言。「ねえ、ねえ。だれの注文なの? ダブルプ レーはだれが注文したわけ?」 ぷぷぷっっ! おまえさー、かわいいこと言うじゃん。ダブルプレー1つお願いしますって、だれかが注文すると思う? だれも注文するわけないだろーが。周聖 って、たまに変なこと言うんだよな。
この間もさ、お父さんの手伝いで段ボール運んでた時、おかしな持ち方してるから段ボールを落としちゃった。おれが「考えて運べよ。算数の問題がいくらで きたって、そんなこともわかんないんじゃ社会では通用しないぞ」って言ってやったら一言。「ど うぞご心配なく。社会も得意です。学校じゃ理科も国語もちゃんとできてますよーだ。」??? なんだそれ? 意味分かって言ってんの? おまえって頭いいんだかアホなんだか、ホントよくわ かんないや。いつもはおれのことよくバカにしたりするくせに。1才だけ年下の弟なんてもう最悪だよ。ちょっと宿題の漢字間違えると「それ、この間も間違えてたよ、泰聖。おれの方が覚えちゃ ったぜ」とか、とにかくうざい。こんなこと言われるお兄ちゃんって他にいるのかな。おれの友だち呼び捨てにするのもやめてほしい。6年をあんまりバカにするんじゃないぞ。
だけど、おかあさんが言ってた。この間おれが修学旅行でいなかった時のこと。ひとりでテレビ見 ながら「わ~!だっせ~!なー、泰聖!」て叫んで「あっ、泰聖いないんだった」と照れくさそう にしていたんだって、けっこうかわいいとこあるね、周聖も。まあ、おれも周聖が出かけてるとな ーんか物足りないっていうのはあるけどさ、ホント言うと・・・。でもこんなこと兄としてぜった い言ってやらないんだ、おれ。

2009年5月○日 「勘弁してよ」

「おぉい、たいせい、風呂長いな。あれ、お前何やってるんだ?」 何ってドライヤーだよ、おとうさん。「いつからそんなもん使うようになった?」 いつからって・・今やっとかないと明日の朝 頭爆発するんだから。一応中学生ですからね、はずかしいじゃん。バスケ部のコーイチ先輩なんてめっちゃかっこいいんだから。バスケは最高にうまいしさー。おれもあんな風になりてぇーな 。
あ、ところでさ、玄関に置いてあるカゴのシールはがしといたから。Jマートって大きく書いてあって変だよ。お客さんに見られたらはずかしいじゃん。それくらい気をつけたほうがいいよ。なっ 、しゅうせいもそう思うだろ。
「ほんとだよね、たいせい。はずかしいって言えばさ 、この間セブン行った時、 おかあさんたらお釣りもらってさいふに入れてさ、そんで アレ!私お釣りもら いましたっけ?ってレジの人に聞いたんだよ。オレめっちゃはずかしかったし。」 えー!マジ? よかった!おれ一緒じゃなくて。もう、しっかりしてよ、おかあさん。 「あーあ、最近言われち ゃってばっかりだなぁ。椅子にぶつかって『おいすにオコラレタ・・・』って泣いてたかわいいぽん ちはどこ行っちゃったんだろう」もう!おかあさん、また始まった! 小さい時の話は勘弁してよ。

2009年11月○日「ウ・ザ・イ」

「そろそろ行きましょうよ、セ・ン・パ・イ」。しゅうせい、お前その気持ち悪い言い方、やめてくんない?「だって中学でバスケ部入ったら、たいせいのこと先輩って呼ぶんだぞって、おとうさんが言うんだもん。だから、今から練習してんの 。ほら、センパイ、2階のそうじ行きますよ。」気持ち悪いんだっつーの。殴るぞ、コラ! 「あっ、やめてくださいよー。痛いじゃないですか、センパイ」ああ、もうイライラする。来年こんな ヤツが中学に来るわけね。頭痛くなってきた・・・。「大丈夫ですかぁ?まあ、がんばってください よ。」しゅうせい!お前、敬語使えばいいってもんじゃねぇ!中学入ったらふざけてるヒマないぞ 。勉強だってめっちゃ難しくなるし。
オレ、中間テスト終わってやっとホッとしたところだけど・・・。一学期は家庭科と美術が相当ヤバかったからね。今回は美術のミスは一個だけ。ステンシルの材料で、『ケント紙』って書くところを『けんとう紙』って書いちゃった。「なんだ、小野妹子って書いたんだ。」おとうさん! おとうさんまで、オレのことばかにして!
「あの~、お話中 ですけど、小野妹子は遣隋使です。小学生のオレでも知ってますよ、センパイ。」
あ~!これだか ら弟はうざいんだよ!

2010年4月○日 「先輩になったオレ」

「あー おれ 眠れないや。どうしよう! ドキドキしてきた。あーーっ どうしよう、泰聖!」
さっきから何騒いでんの、周聖。「だって、明日おれ入学式! 誰と一緒のクラスになるだろ? ねぇー、一年教室って何階? わかんねえ。迷子になったらどうしよう」
みんなについて行きゃいいんだよ。迷子になんかなるかよ。周聖ってそういう性格だったっけ? なんかおれ、お前のことよくわかんなくなってきた。この間まで小学校の児童会長やってて、みんなの前で挨拶とか平気でしてたじゃん。明日の入学式は別に何にもやることないし、ただ黙って座ってりゃいいの!
「だって中学って人数多いし、知らない人もいっぱいだし、先輩怖いでしょ」

なんだかんだと騒いでた翌日、よく晴れた空の下何事もなく入学式は終わった。周聖はもちろん迷子になることもなく中学生の仲間入りをし、おれは2年生になった。
小学校と違い、中学は遠い。スクールバスで20分かかる。3年生から順に後ろの方に乗り、1年生は前から4列目までの席に座るという暗黙の了解。これは周聖にちゃんと教えておいたから大丈夫だろう。入学式の翌日、おれは車で送ってもらってバスケの朝練に出かけ、周聖はスクールバスで初登校した。よっぽど緊張していたんだろうな。清里からの山道をくねくね下るうちに気分が悪くなったあいつは学校に着くなり保健室へ直行。そのまま2時間保健室で爆睡したらしい。その間にクラスの委員長やら係りやらが全部決まっていてわけがわかんないけど、まあいいや、だってさ。ほんと周聖ってどういうヤツなの? 繊細なんだか、図太いんだか・・・トホホ。

バスケ部の新人は今年は15人ぐらいになる様子なんだけど、この中にうまいやつがいるんだよねぇー。ミニバスで関東大会まで行ったやつらがさ。おれ正直言って今の時点で、すでに負けてるかも・・。ヤバイよ。バカにされないようにがんばらなきゃ。
この間の練習のときだけど、周聖の同級生のケンジが昔のように親しげに「おーい!泰聖」って言った瞬間、周聖が後ろからケンジの頭を小突いて「泰聖先輩だぞ!」だって。別に呼び捨てでもいいんだけどさ。
それでケンジのヤツ、今朝『おはようございます』なんて挨拶するもんだから、おれ、不意をつかれて思わず『おはようございます』って返事しちゃった。ケンジ、へんな顔してたな~。ふぅ・・この先どうなることやら。

    

2010年11月○日「母というものは・・」 

「お母さんってさ、気まぐれだよね。それに結構わがままだと思うなあ…」
オイオイ、周聖。急に何言い出すんだよ。4人でゆっくりお茶飲んでるときにいきなり爆弾発言するかぁ!
「私ってきまぐれ? それにわがまま? そう? 心外だなあ。ねえ、黙ってるけど泰聖もそう思ってるわけ? ねえってば!」
えっ? オレ? 何でオレ? オレ何にも言ってないッスよ。
「だから泰聖はどう思うのって聞いてるの! 答えてよ」いや~ う~ん オレは別に・・・。おい、ちょっと周聖。何か言えよ。フォローしろ。
「いや、ちょっとそう思っただけ。オレは。」
「お母さんが特別わがままなわけじゃないさ。女なんてみんなそんなもんさ。泰聖も周聖もよく覚えとけ」
お父さん、全然フォローになってないけど・・・。そう言えば、オレの隣の席の女子もめっちゃ変。自分が悪くても認めないし、3日に一回は、泰聖好きな子いる?とか聞いてきて。ウザいんだよね~。 
「気にしてもらえるだけいいじゃないの。聞かれない人だっているんだから。ところで、泰聖は好きな子いるの?」
なんだよ、お母さんまで。いねーよ。オレはバスケット命なんだから。バスケさえやってられれば他はどうでもいいってこと。部活がない日は学校行く気がしね~し」
「何言ってるの、泰聖。勉強もちゃんとしっかりやってよ。この間の漢字テスト、ひどかったでしょう。四季折々のカゲカツって何よ。」
あ~、景勝ね。カゲカツじゃなくて、ケイショウって読むんだった。テレビで上杉景勝を見た後だったから、ちょっと間違えちゃっただけ。四季折々のカゲカツはちょっとヤバかったな。
「勉強しないんだったら、バスケやめさせるからね。今度のテストの結果次第だよ。それからさ、後でお客さんのお部屋のそうじ、手伝ってよね」
えーーっ オレ今から宿題しなきゃなんないのに・・・。
「勉強は勉強、手伝いは手伝い。 両方ちゃんとやるの」
お母さん、やっぱ気まぐれすぎない・・・かと・・・